中小企業の事業再生に取り組む中で、
銀行から資金調達のお手伝いをする事も、
当然当社のメニューには含まれます。
そのようなご相談の中で、
「資金繰りが苦しいので、取りあえず運転資金を貸してほしい」と
銀行に相談したが断られた。
という話を聞く事があります。
中小企業の社長が、ついつい口にしてしまう
「取りあえず運転資金」というフレーズ。
実は銀行に対して、大きな禁句です。
そんな禁句を使ったが為に、本当であれば調達できた資金が調達出来ない、
という笑えない話にもなりかねません。
「運転資金」という言葉が悪い訳ではありません。
運転資金は銀行にとって、当然融資の対象になるべきものです。
問題は「とりあえず」です。
銀行員は「とりあえず」と聞くと、このように考えます。
「社長がとりあえず運転資金と言っているのは、
本当の資金の使い道を社長本人が理解していない」
・・・・経営能力が無い
「本当の資金の使い道を隠しているかも知れない」
・・・・嘘をついている
「とどのつまり、赤字の補てん資金に違いない」
・・・・業況が極めて悪い
※銀行員時代の私の経験からです
そもそも一口に運転資金と言っても、結構な種類があります。
1.経常運転資金
企業が事業を続けていく中で、売上入金と仕入支払のギャップを埋める為に
「経常的に」必要となっている資金。
2.季節運転資金
売上高が月々によって大きく変動する場合に発生する資金。
例えば売上が急に落ち込む時期に、一時的に赤字になるので、
その期間資金が足らなくなる場合。
賞与資金や、納税資金なども含む。
3.スポット資金
スポット的に高額な商品の買い付け、イベント的な支出等、
通常サイクルの仕入以外で発生する資金。
4.増加運転資金
売上が、右肩上がりで増加中の場合に発生する資金。
5.取引先との諸条件悪化による追加運転資金
売上が増加しなくても、取引先との諸条件の悪化により、
資金が不足する場合の資金。
(1)売掛債権の増加~売上回収の長期化等
(2)在庫の増加
(3)買掛債務の減少~支払サイトが短縮されたり、
今まで手形支払であったものが、現金支払に代わる等
6.赤字補填資金
言葉通り、本業の赤字を埋める為の資金
7.財務赤字補てん資金
本業は何とか回っているが、
銀行返済が出来るキャッシュフローが生まれない為、
借入によって賄おうとする資金。
銀行から見た場合、1.から4.の場合は、
資金の使い道(銀行は「資金使途」と言います)も明確ですし、
返済の見通しが立ちやすいので、十分融資を検討できます。
5.の場合、売掛債権の増加は、売上の焦げ付きが懸念され、
又在庫の増加は不良化が懸念されますが、
懸念材料を払しょくできる理由が明確であれば、これも検討可能でしょう。
しかし、6.や7.の赤字補てん資金は全く違います。
本業や財務に関わらず、赤字の補てんに使われる資金が、
近い将来銀行返済出来る、と考える銀行などありません。
財務の赤字資金7.であれば、借入よりはリスケを検討すべきです。
かつての高度成長時代においては、年々担保不動産の価値が上がりますし、
売上も増加基調でしたから、
「とりあえず運転資金」というフレーズは何とか通用しました。
しかし現在の経済状況では、資金使途の不明確な運転資金を、
銀行は一切取り上げないと考えるべきです。
「とりあえず運転資金」は銀行に対して禁句です。
運転資金が必要な場合、その種類を明確にしましょう。
運転資金の種類を明確にし、種類に対応した返済計画を立てる事が、
成功する資金調達の第一歩です。