少数株主対策とは、株式の保有割合をコントロールして経営の安定化を図ることを目的とした施策のことを言います。
少数株主対策には、おおきく「事後的対策」と「事前的対策」に分けられます。
事後的対策には株式集約、事前的対策には譲渡制限などがあります。
それぞれ具体的な方法を解説します。
少数株主対策:事後的対策
株式の分散後に株式を集約する方法
すでに分散してしまった株式を様々な方法で集約して議決権を確保していく方法です。
株式集約の方法は複数あり、分散してしまった株式の状況や会社の状況によって選択していくことになります。
交付金合併・株式交換・株式移転・株式譲渡、その他にも複数の選択肢があります。
株式集約の方法について、それぞれの状況に応じた選択方法とメリット・デメリットを下記の記事で解説していますのでご参考にください。
少数株主対策:事前的対策
株式の分散前に少数株主の発生を抑止する方法
分散する前に少数株主の発生を抑制する方法にはいくつもの段階があります。
株式に譲渡制限を設けたり、法令を遵守するコンプライアンス経営などがそれにあたります。
株式の分散前に少数株主の発生を抑止する方法を段階的にまとめたものが後述する「少数株主対策チェックリスト」です。
少数株主対策チェックリストは適切に株式・株主を管理するためのチェックリストとなっています。
チェックすることで、少数株主対策において自社の抱える問題が明らかになります。
さらに、問題点に対して、なぜそれらがリスクであり改善する必要があるのかまで解説していますので、是非ご利用ください。
少数株主対策が必要な背景
少数株主対策が必要な背景として最も大きなものが「紛争・訴訟」にあたるでしょう。
少数株主の不満が紛争や訴訟に発展してしまうと必ずと言っていいほどニュースに取り上げられます。
そうなってしまえば一生ものの傷と言えるでしょう。
ネット上で拡散されて傷は残り続けます。
株主や取引先からの信用も失墜することでしょう。
そうなってしまわない為にも少数株主対策が必要とされています。
他にも、株主の権利の尊重、会社法を遵守した経営、事業承継、M&Aといった側面でも少数株主対策が必要になってきます。
少数株主対策は下記の理由から必要と言えます。
紛争や訴訟の原因
少数株主が多く存在して意思を持って議決権を行使できる状況のとき、会社側の対応に不満があった場合には紛争に発展する可能性があります。
会社の一存で決定したいものでも、少数株主が権利を持っていることで非常に多くの時間と手間がかかってくることがあります。
そして少数株主に対してしっかりと応答しなければ、より大きな波を引き起こすことに繋がります。
直近では後述する「大正製薬HDの少数株主の会」というものが訴訟の事例となるでしょう。
表題の通り、少数株主が会社の決定に対して不満を持った結果このような状況に発展したものです。
究極のところ、100%の株を所持していれば、会社の決定に少数株主が不満を持って法的な訴訟を起こすこともありません。
株主の権利の尊重
株主の権利を尊重するためには多くのリスクを伴います。
1株でも所持していれば「株主代表訴訟の提起権」があります。
株主代表訴訟は、役員の義務違反による意思決定・行動によって会社に損害を与えたにもかかわらず、会社がその責任を追及しない場合に行使できます。
株主が所定の手続を経たうえで会社に代わってその会社役員の責任を追及する訴訟を提起できる制度です。
実際に提起権を行使されただけでも、会社にとっては大きな影響となるでしょう。
役員が責任を追及されること自体が会社にとって事件であり、信用問題にも発展します。
たった1株でもこの影響力をもっていること自体が、少数株主のリスクと言えるでしょう。
下記で少数株主の権利を解説していますのでご参考にください。
会社法を遵守した経営
- 会社法第125条(株主名簿の備置き及び閲覧等)
会社法で言う株主とは、会社に出資した代わりに株式を受け取った人を指します。
つまり、会社の持ち主です。
株主になるということは、配当金や株主優待を受けることができるほか、会社に意見できる立場になるということを意味します。
今まで異なる者が株主となった場合、新たな株主に関する情報を記載し、株主名簿を更新しなければなりません。
株主名簿の作成は会社法で定められており、管理方法も会社法第125条で定められています。
株主名簿において記載・更新しなければならないのは下記の情報です。
- 株主の氏名(名称)および住所
- 保有株式数・種類
- 株主取得年月日
- 株券番号
株主が増えれば増えるほど株主名簿の更新には大変な手間が生じることになります。
株主名簿、作成されていますか?
株主から閲覧謄写の請求があったときに必要になります。
株主名簿の作成を怠った場合には会社法第976条に基づいて100万円以下の過料が科せられる恐れがあります。
また、作成と同様、更新を怠った場合も、同様に100万円以下の過料が科せられる可能性があります。
このように株主名簿ひとつとっても会社法で多くの規定と罰則があります。
少数株主が増えるほどにこれらの手間とリスクが増大することになりますので、しっかりと対策が必要です。
- 会社法 第九百七十六条
- 会社法 第九百七十六条 七号
事業承継とM&A
事業承継では会社の代表が変わることから経営の方針などが変更される恐れがあります。
会社としては他に選択肢がなかったとしても少数株主の中にはこれらを良く思わない方も出てくるでしょう。
過半数以上の株式を集約していないと事業承継に支障をきたすこともあります。
一般的に、後継者が安定的に会社経営を行うためには、少なくとも過半数の議決権を有することが必要と言われています。
過半数を最低ラインとして、3分の2以上の議決権を有することを目指すべきです。(特別決議可決の要件)
M&Aでは更に事情が複雑になることから、少数株主の意見次第では手続きの手間や信用の低下を招くことにもつながります。
それらは事業の売却価格の低下を招いたり、最悪の場合にはM&A案件自体が破談してしまうことも十分あり得ます。
事業承継もM&Aも会社の存続をかけた施策です。
そのため、このようなことが起こらないよう、対策をとっておく必要があります。
ところが、少数株主対策を行うにはどうしても時間がかかるのです。
やはり、事業承継やM&Aを検討するよりももっと前の時期から、少数株主対策を実施しておくことが重要となってきます。
少数株主と集団訴訟の事例
2024年4月11日 「大正製薬HDの少数株主の会」というものを少数株主が立ち上げて集団訴訟に発展するか否かといったことがありました。
- 大正製薬「非上場化」の対価が7100億円では「安すぎる」と株主が憤慨、「集団訴訟」に発展する可能性
このように少数株主による訴訟提起の可能性などを考慮すると、コンプライアンス経営の重要性に気づくことでしょう。
コンプライアンス経営とは、企業としての信頼や安心を守るものです。
法令を遵守し、倫理にのっとった言動や行動を示し、少数株主に対しても日ごろから信頼と安全を守り続けることが重要です。
会社側が100%の議決権を有していない場合には、株主と一度対立状態になってしまうと完全に補修することは非常に難しくなります。
会社法では少数株主に多くの権利を与えています。
少数株主対策としてのコンプライアンス経営には多くのコストがかかりますが、少数株主対策の失敗によるリスクを考慮すれば、コストをかけてでもコンプライアンス経営に尽力すべきでしょう。
まとめ:少数株主管理の重要性
ここまでで、少数株主対策の方法と少数株主対策が必要となる背景を伝えられたかと思います。
少数株主は紛争・訴訟の原因になるだけではなく、多くの権利を行使することができます。
さらに会社法で遵守しなければならない項目が増える、少数株主が事業承継・M&Aに意見を表明することによって株式価格の低下や事業承継・M&Aが破談となるリスクが生じるなど、少数株主は多くの影響力を持ちます。
その株主を管理しないということは、会社にとってとてつもなく大きなリスクを抱えるということを意味します。
株主というのは会社の持ち主です。
会社の持ち主が誰か分からない、どこに住んでいるか分からない、何株持っているのか分からない。
このような状況は非常に危険です。今後の手続きにも支障をきたしますし、明日にでも法律上の罰則を受ける可能性もあります。
株主管理について心配な場合には次項の「少数株主対策チェックリスト」をご利用ください。
少数株主対策チェックリスト
譲渡制限が付されていない株式があれば、望まない人物が株主となる可能性があります。
全株に譲渡制限を付与するようにしましょう。
定款に当該請求権の定めがなければ、相続人の数によっては株式がどんどん分散してしまいます。
また望まない人物へ株が渡ってしまう可能性もありますので、当該請求権の導入を検討しましょう。
ただし、当該請求権を導入した結果、大株主の相続人が追い出されて、他の株主に会社を乗っ取られるリスクもありますので、注意が必要です。
過半数のシェアを保有していなければ、取締役を解任されるリスクがあります。
最低でも過半数の議決権を抑えるようにしましょう。
組織再編や定款の変更等には、特別決議が必要であり、2/3の議決権が求められます。
重要な意思決定を迅速に行うためにも、2/3以上の議決権を抑えるようにしましょう。
1人(もしくは1社)で90%以上の株式を保有している株主は、他の株主から強制的に株式を買取ることが可能です(スクイーズアウト)。
総会の決議や財源規制もないため比較的簡単に行えますが、少数株主との関係性が悪化する可能性もありますので、スクイーズアウトの実施は慎重に検討しましょう。
株主名簿は作成していますか?
またその名簿は最新の状態でしょうか。
相続等により株主が変更になっている可能性もありますので、定期的に調査を行い、株主名簿と実際の株主が一致するようにしておきましょう。
株主全員と話ができる間柄でしょうか。
M&Aを検討する場合には、100%の株式を集約することが求められます。
少数の反対株主がいるためにM&Aが破談となり、会社を清算するしかなくなった・・・ということがないよう、株主と有効な関係性を保つようにしましょう。
FAQ
- Q少数株主対策とは?
- A
少数株主対策とは、株式の所持割合をコントロールして経営の安定化を図ることを目的とした施策のことを言います。
少数株主対策は、おおきく「事後的対策」と「事前的対策」に分けられます。
- Q少数株主対策をしないリスクは?
- A
主に株主の不満が発生するタイミングで起こります。
1株でも所持している株主には様々な権利があり、それらを尊重せねばなりません。
また、少数株主と対立した際には紛争や訴訟のリスクがあります。
将来的に事業承継やM&Aの際、少数株主の扱いが煩雑になり、手続をスムーズに進められないなどのリスクもあります。
- Q少数株主対策のデメリットは?
- A
株主名簿の管理やコンプライアンス経営など、いままで疎かになっていた部分を正していくことに多くのコストが必要になります。
しかしながら、少数株主と対立したときのリスクと比較すれば、そのコスト増も十分に許容できることでしょう。
少数株主対策なら喜望大地
大手上場企業だけでなく、中小企業や非上場株式を扱う会社でも少数株主の対策に悩まれて相談されることが多々あります。
令和の時代になっても少数株主対策は必要なのです。
喜望大地では、20年間で1,000社を超える事業再生の実績があり、経営権の安定化・事業承継をお手伝いしています。
少数株主対策や経営権の安定化でお悩みの際には是非お問い合わせください。